だいたい300万円はローンを組んでいる

2011.04.12

ハンドマッサージを終えたRさんが隣のベッドに横になったものだから、今度はRさんを巻き込みはじめた。「おねがあい、Rさんからも○○さんに言ってよ。Rさんは今回のコースでハンドマッサージを入れているでしょう?やっぱり、マッサージっていいでしょう?○○さんに勧めているんだけどつれないの。サイズダウンにつながるよね?ちょっと○○さんに言ってよ」今度はRさんのサイズダウンの準備をはじめながら、店長はRさんに強要した。さすがにRさんも困り果てた様子で、ふふふと苦笑している。「むくみや疲れが取れるわけだから、効果が上がるじゃない?それはRさんがよく知っているでしょう」私は息苦しくなりながら、苦しそうなRさんと、小さい目を見開いてまくしたてている店長を見比べていた。もうやめてと言いたい。Rさんが困っているのを見れば分かるじゃない。でもこの人は何が何でも言わせようとしている。だから私がことわればそれで終わる。私はわずかに口を開いた。そのときRさんが言葉を発した。「ハンドマッサージはいいですよ」とっさに私は開いた口をつぐんでRさんを見た。彼女は頬を引きつらせていた。私は何だかとても申し訳ない気持ちになって、眉をひそめて彼女を見ると、こちらに優しく微笑んだ。それからRさんに強要はしなくなったが、またハンドマッサージの話は続き、店長だけでなくFさんにも、Wさんからも言われ、「もういい加減にしてくれ!」と叫びたくなってきた。何度も「無理です」と連発しているのに、彼女たちは一向に引き下がろうとはしなかった。確かに追加できるのならしたかった。「これを入れれば効果が上がる」というセリフにも弱い。しかし私の借金はもう限界だった。やっと待合室にたどり着き、私はカルテをテーブルの上に置いたまま、Rさんと声を潜めて話をしはじめた。「確かにいいと思うから私もコースに入れたんだけど、金銭的に無理なのに入れるのは絶対にやめたほうがいい。ここは勧誘がすごいじゃない?それにいちいちこたえていたら、ローン地獄になるよ」彼女は身を乗り出して私に顔を近づけ、ひそひそ話した。「そうですよね」「ここに通っている人ってね、だいたい300万円はローンを組んでいるのね。それも決して収入がいいわけでもないOLばっかりだから、みんな支払いが大変だと思うの。ただ、まだ余裕があるなら、ハンドマッサージは本当にいいとは思うけどね」私の二つ年上だというRさんは、間近で見るとまつげが長くて、口が余っているところが萬田久子に似ていた。「さっきさあ、店長すごくなかった?」私は口の左右を持ち上げて、うんうんと大げさに頷いた。「○○さんも困ったと思うけど、勧誘に使われる私もつらかったよ、はははっ」そこで私も肩をすくめてふふふと笑った。「まだこうやってさあ、あたしたちみたいに仲よくなっちゃえばいいけど、自分がエステサロンに勧誘されてローン地獄になっているもんだから、他人も同じ目に遭わせてやろうなんて人とかもいるからね」「本当?」「そんな人に店長がさっきみたいに勧誘に利用してごらん?大変なことになるよ。でもそういう人はたくさんいる。あとさあ、エステサロンのスタッフに気に入られたほうがサービスしてもらえると思って、勧誘に自分から協力する人もいるしね。だからあくまでも自分は自分って思っていないと、あっと言う問に借金だらけになっちゃうからね。みんなもそうだから自分も大丈夫だと錯覚しちゃうから気をつけてね」彼女は最後の「気をつけて」だけ、声を出さずに口をぱくぱくと動かした。
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